りんごの芯

思いついた事感じた事を言葉に ショートストーリーにしています。

ひと駅ストーリー

もう時計の針は日付を変更しようとしている
それなのにまだ電車に乗っているのだ

あとひと駅で家に着くのに

遡ること6時間
出張先から飛行機で戻ってきて
特急に乗れば電車で1時間で最寄り駅につくのだ
だが、何を思ったのか
鈍行を乗り継いで帰ろうと決めた
今思えばこの気持ちこそやつの仕業だったのかもしれない

空港から少し外に出ると屋台があり
早く帰ればいいものの
おでんにラーメン焼き鳥屋と
屋台が連なっていれば帰る気なんて失せてしまう
おでんを日本酒でラーメンをビールで流し込み
ほろ酔いながらはっと終電の存在に気づき

くらくらする頭を起こし駅へ急いだ
田舎の難点は終電が早いのと電車がなかなか来ないこと
もう特急にしてしまえばいいのに
鈍行で帰ることにしてしまった

そして案の定お酒の効力が発揮され
眠りこけてしまったのだ
気づいたら最寄り駅よりひと駅先……
そんなこんなで電車に乗っているのだが

私の目の前に車窓から見える景色が広がっているのだ
いや、当たり前じゃないかなんて思うだろけど
今は夜さらには田舎で街灯なんてそうそう無い
窓からは何も見えないんだ

どこから景色が見るかと言うと
向かい側のシートに写っているんだ
青っぽい毛の短い布が張られた椅子の背もたれに窓のように白い四角い枠が二つ
その枠の中に外の景色だと思う風景が映るのだ

それだけじゃなく黒くて丸いボールにもやしのような手足が生えたキーキー喋る生き物が時々飛び出てきて

あとひと駅で行きたい駅
だけどもあとひと駅で僕とお別れだよ
そんなの寂しいじゃないか
もっと乗っていなよ

なんて歌うもんだから
奇妙で仕方ない
だけれどもどこか懐かしいんだ
そう考えていたらキーキー野郎が

僕は君を知ってるよ
君も僕を知ってるよ
あぁブランコ遊び楽しかったな
学校でちょきちょき工作楽しかったな
君と追いかけっこ楽しかったな

と歌い出した
その歌を聴くとなにか記憶が揺さぶられたがそれが何なのかすぐには思い出せなかった

思い出せないまま最寄り駅につき
電車を降りホームの階段を上がっている時に
記憶がぶわりと舞い戻ってきた
風が吹き少しの水滴を運んで来た
まるで記憶が舞い戻り落ち着いたかのように
水は吸い込まれていった

そう。あの歌は友人がなにか大切なものを伝えたい時に
口ずさんでいた曲
思い出した瞬間に階段を全力で駆け下ったが
なんのアナウンスもなくベルもなかったのに
乗ってきた電車はいなかった

あいつと私は幼なじみで特に名前があいつが山下私が山上で
家も同じマンションの上と下で
上下セットだ!と二人でよく遊んでいた

そして不思議な夢を見たと思いながら帰路につい
家につき久々に山下に連絡するかと思い
ソファーに寝そべりケータイを開いた

すると一件のメールが来ていた
時間帯は電車に乗っている頃で通知に気づかなかったのは
やはり眠っていたからかと思いながら開くと
そこに一言
あいつが死んだ

まだ働き盛りの40代でもそろそろそんな年か
なんて考えながら
あいつって誰?と聞くと

あいつだよあの……裕二!

山下裕二だよ!一緒にいてバイク事故って病院に 運ばれてしばらくして死んだ

僕はあの変な夢の時から流れている涙の意味も全てを察した